2016年7月31日日曜日

過去は消えず

昨日のことも、一週間一か月前のことも、十年前もさらにその前のことを思いだすのが記憶というものだろう。
しかし記憶とは一体なんだろうか、単に脳に蓄積されている事を、突然にあるいは意識的に思い起こすことだろうか・・・。
最近自分が思うのは、単に身体の脳の働きだけではない何かが過去の記憶の中から「それら」を立ち上がらせているのではないかと・・・。

おおよそ30年くらい前のことである。東京北千住のとあるバーで隣にいた中年男の話を時々思い出す。
「この話を今なぜあなたにお話ししたくなったのかわからないけれどね。恋の記憶とでもいうのかな。わたしが二十代半ば結婚する前のことで、ある女性に唐突に恋してしまった。しかし、その女性には思う人がいて、その思う人には家族があって、でもその思いは変えることが出来ないと。わたしの恋の告白は破れたが友達としてならと言われた。彼女とは時々会って酒呑んだり遊びに行ったりしていたが、どこか冷めたところがあったのは彼女が思う人に心が行っていたからだろう。
そして時は流れ、わたしにも好きな人が出来て結婚した。仕事は忙しく家に帰る事もままならぬ状況でたびたび仕事場に寝袋持ち込んでいたようなバブルの頃である。疲れ切った、そんな夢枕に、その彼女が現われた、そしてなぜか電話番号の数字が現われてきた。不思議なことだが記憶ではないような思いからなのか、その時はもう十年くらいたっていたのだが、わたしはその電話番号を打った。深夜のことだ。その受話器の向こうに出た声は、眠そうな彼女のけだるい声だったのだ。
懐かしさとお互いの今在る状況など長い会話が時間を超えていくようだった。そして会う日取りを約束をした。・・・・
どう思うかね、彼女とはプラトニックな関係だったんだよ。実際こんな恋もあるのだな。この話はさらにそれから十年先に及んでいくのだ。

つづきは、いずれまたね・・・・はぁ」

自己の過去は消すことが出来ない、また他者の過去もそうであろう。しかし他者の過去は他者の経験の中でしかなく、自己の過去もまた同じである。ただ、その他者の言葉の声は自分の過去の経験に沿って現実となって立ち現われる。
記憶とは、過去のことが脳に映し出されるということだけではなく、たとえば亡くなった人などのことも現実に目の前に現れるがごとくリアルに思い出される。身体の脳だけの働きだけでは出来えないことだと思う。(もちろん、それをつかさどる器官の脳が壊れたら無理であろうが・・)それが何なのか分からないけれど確かにそのような妙な感覚が現われる事を確信し、人間の妙に今魅かれているしだいである。


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